山陰こそビールの最前線である!


共著ではなく単著としては初めてのビール本『山陰クラフトビール』(今井出版)が無事に出版された。山陰両県の7醸造所を全て訪れてブルワーの皆さんにインタビューしたのはもちろん、本職ではないカメラマンとしてもフル稼働。「取材・撮影/執筆」という形でがっぷり四つで取り組ませてもらった。

 冒頭に「山陰こそビールの最前線である!」という序文を寄せた。今の時代、地方だから遅れているということはない。むしろ地方こそ様々な地の食材を使ってみたり、実験的な取り組みができたり、実際に画期的な手法が生まれるフロンティアである。山陰の人は長いこと「自分たちは遅れている」という意識でいたためか自虐的なことが多い。

 決してそんなことはない!むしろ最前線なんだよ!ということを伝えて元気を出して欲しいと思った。ここでは、そんな願いを込めた序文を全文引用したい。中身が気になったらぜひ、

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はじめに
山陰こそビールの最前線である!

 6年前の2013年7月。妻の出身地である鳥取県大山町に移住するにあたって、東京でやっていた放送作家の仕事も大好きだったビアバー通いも諦めざるを得なかった。当時、仕事も趣味のビールも「東京という“中心地”から離れてしまうんだ」という感覚があった。
 そんななか、逆に「大山Gビール」と「松江ビアへるん」という有名ブルワリーのビールを今後は地元で飲める!という事実は、ホップのようにほろ苦い諦めの気持ちを甘いモルトのように下支えしてくれた(比喩がわかりにくいかもしれない)。

 そう、地ビールブームに沸いた頃は山陰両県に8社ほどあった醸造所も、僕がやって来た頃にはその2社だけになってしまっていた。
 だが僕が大山町でフリーライターとして活動し始めた頃、智頭町にタルマーリーがやって来て免許を取得。その後、石見麦酒が続き、さらにファーマーズブルワリー穂波、AKARI BREWING、475BEERが立て続けに誕生。いつしか山陰は7社のブルワリーを擁するようになった。来春に醸造を開始させる予定の倉吉ビールの設立で、ついに8社体制が復活した。

 中身も一つひとつが全く似ていない。野生の菌×ビール、地域コミュニティ×ビール、農業×ビール、季節×ビール……とそれぞれが自分たちなりのブルワリー像を模索して、そのフィールドにおいて最前線を走って地域にポジティブな影響を与えている。辺境と思われがちな山陰が中心になっているケースも少なくない。全国に広がる石見式醸造法の中心地はまさに島根の石見(県西部)だ。
 飲み手としても受動的ではなく能動的に楽しむことができる地方はむしろ最前線。大自然のなかでビールが飲め、自宅にはビールサーバーやビアバーを設置し、ビールブログで発信し、ビール祭を主催し、庭でホップを栽培する。今度はこんな本を出させてもらう。“中心地”から遠く離れてしまうという思いは錯覚に過ぎなかったのだ。

 本書では、山陰の各地域を盛り上げる7つの醸造所が手掛けるビールの紹介を中心に、各ブルワリーの来歴とこれからの行く末にも迫った。ビールのビギナー向けにわかりやすく書いたつもりでいる。
 あなたが山陰のクラフトビールを手に取って飲む。本書がその一助になれば幸いだ。

2019年8月吉日  矢野竜広
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