箇条書きで綴る。映画『高津川』を見て感じたこと


高津川という綺麗な川を僕は知らなかった。

知ったきっかけはビール。去年1月から醸造を開始した高津川リバービアという社名を最初に目にしたとき、「へえ、島根の西の方に高津川っていう川があるんだ」と認識した。高津川リバービアの上床絵理社長にインタビューをして記事を作成するなかで高津川のことを少し調べたら、とんでもなく美しい川なのだと思い知る。清流日本一に何度も輝いている。にもかかわらず、とんでもなく知名度が低い。

そんな恐ろしく知名度が低い川をあえて直球のタイトルにした映画、その名も『高津川』。予告編とかを見て何となく淡々とした映画なのかなと興味が惹かれ、鑑賞してきた。非日常的なものや人やストーリーを好まない僕にとっては最高な映画だった。これは感想文を書きたい!と思ったのだけど、映画という娯楽に慣れていなくてレビュー的記事の書き方がわからないので、感じたことをそのまま箇条書きで記すことにする。ちなみに、映画関係ないじゃんという内容ばかりなので適当に読み流していただきたい。

・今回、『高津川』を見たいなと思って調べたら、山陰在住者の選択肢は「T・ジョイ出雲」という映画館しかない。午前と午後の1日2回。午後の16時20分の回に行ってみたら、受付にて画面上で席を選べる。「どこにしますか?」と言われ画面を見て仰天したのだけど、1席しか色が付いていない。公開から1週間も経ってないのにこんなものなのか。すごい切ない現実だ。

・上映開始の後、1人だけ遅れて入って来た人がいたので客は合計3人。1日2回しかないのに3人。島根県の人口の少なさがかなり効いている。映画を見ると地元のエキストラの人が半端ではないほど参加している。一体彼らはどこで見ているんだろう?

・「T・ジョイ出雲」が入っている施設は「ゆめタウン」というのだけど、名前のイメージからマクドナルドと本屋と映画館と超地味なおばちゃんの服しか売ってない婦人服店の5~6店しかない施設を想像してた。実際はめちゃめちゃデカいイオン的施設で焦った。迷ったため途中で車の中に眼鏡を忘れたことに気付きながら、時間がないので映画館の中に入った。

・視力に自信がないから最前列中央の席をチョイス。人生初最前列。よく「最前列は首が痛くなる」と言うけどその意味がわかった。それと文字を追うと近過ぎて気持ち悪くなってくる。開始前の他映画の予告編の時間に「後ろに移動しよう」とずっと考えていたけど、タイミングを逃してしまう。

・本編が始まると文字が出てこないので気持ち悪くならなかった。カメラがぬるぬる動く感じが多少気持ち悪かったが(近いのでカメラの動きの影響が大きい)、下から見上げる感じという若干の違和感以外は問題なかった。前の客の頭とかもないので映画の中に入り込んでいる気分。暫定的に自分を、マンホールの蓋を少し開けて、その場所を下から眺めている人と仮定した。最後まで没入感があったので最前列という選択はよかった。

・ただ、アクション映画でもないむしろ地味な群像劇で、しかもガラガラなのに一番前の席を選んだ「めちゃめちゃ映画『高津川』を楽しみにしてた奴」と思われていないか若干不安が残る。

・映画は本当に淡々としていて、ストーリーがわかりやすかった。僕が映画が苦手な理由はストーリーを追えないから。ストーリー潔癖症なため少しでも意味がわからないシーンが出てくると、混乱するし頭の中で疑問が膨らんで全く内容が入ってこなくなって、ただ映像が目の前を流れるという状態になってしまう。その点、映画『高津川』は僕のようなストーリー潔癖症でも安心して鑑賞できる。僕が太鼓判を押す。

・この映画には継承すべきものがたくさん出てくる。それは、高津川の美しさだったり、そこで育まれた魚や自然、石見神楽の伝統、和菓子職人や寿司職人の技術だったり。継承する者がいなくて困る、という話になりがちなんだけど、考えてみれば継承すべきたくさんのものに囲まれている高津川流域の人は豊かで恵まれている。遺産の話だったら「継承する者がいなくて困る」って事態にはならないのに、自然や文化になるとお金以上に価値があるのに継承者がいなくなってしまって不思議なもんだ。

・主役の甲本雅裕さんの演技はとても自然でよかった。というより、みんな自然だった。演技のことは当然のことながらよくわからないけど、自然に見えるって実はすごい難しいのではないか。たぶん自然さを演じる必要性があると思うから。以前、とある小説家さんが「虫の鳴き声をギーギーと表現するとリアリティがなくて、ギルルリェ ギルルリェとか書く」みたいに話していたのを覚えている。たとえ実際の音が「ギーギー」に近くても。

・甲本さんが夕食を掻き込んで去るシーンは印象的だった。そうそう、実際は家族なんて意外とバラバラで会話なんてなくて、それでも自然に成り立っているんだよな。

・結構冒頭の方で、甲本さんが役場を訪れるシーンがあるのだけど、そこで話していた女性の後ろ姿の下半身の肉付きの良さはめちゃめちゃリアルだった。モデルみたいに細い人ばかりが登場するだけで嘘っぽくなる。

・それを言ったら、結婚を諦めて和菓子屋を継ごうと奮闘する戸田菜穂さんは、その設定にしてはあまりに綺麗過ぎるけれど。僕は大学生とか20代の頃とか「好きな女優さんは?」と聞かれたらいつも「戸田菜穂さんです」と答えていた。シンプルに彼女の顔が好みなのである。「え?おばさんじゃない?」と驚かれることが多く、「そうかな?」と不思議だったんだけど一度だけ「あのアンパンマンの声の人ね」とリアクションされたとき、全ての謎が解けた。それは戸田恵子さん。戸田さん違いだ。おそらく多くの人に「あいつは熟女好きの奴」と思われたに違いない。誤解を解いて回る旅に出たい。

・好きと言いながら久し振りに見た戸田菜穂さん。体のシルエットがかつての1.2倍くらいあり、時の流れを感じた。だが、これは戸田さんの価値をいささかも減じない。むしろ魅力になっている。

・映画の中で「ダムが一つもない川」というのが褒め言葉として当たり前のように展開されるのだけど、「ダムがない=綺麗な川」って図式がないのは自分だけだろうか。僕の中で「ほくろが一つもない=大胆不敵な性格をしている」くらいピンとこなかった。

・弁護士役の田口浩正さんはいい味を出している。実に役者然としているのだ。脇役然と言うのだろうか。おそらく元巨人の川相選手を見たら誰しもが「野球選手だ」と思うだろう。そんな感じで役者にしか見えないのである。

・高津川の綺麗さは山陰に住む僕でも圧倒されたから、東京や大阪に住む人はもっと驚くと思う。

・同級生役で寿司職人役の岡田浩暉さんは僕たち世代にとっては、To Be Continuedのボーカルで馴染み深い。うまく言えない人、という認識である。画面を通してだけでも、いい人なんだろうなというのが伝わる。調べたらついこの前、To Be Continuedが新曲を出していた。しかしなんで50代中盤なのに太らないし、ハゲないし若いままなんだろう。明らかに不公平である。

・劇中、主人公の高校2年の息子が「父さんたちはものわかりが良すぎるんだ。ここにいて、自分の仕事を継げって言えばいいんだ!」みたいなことを大声で言うシーンがあってハッとした。これは本当に地元の子が思っていることなのだろうか。摩擦を避けて変にものわかりのいい父親に自分は絶対になる自信がある。昔は親父達が「仕事を継げ」って言ってたと思う。いつしか個人尊重の時代になって口をつぐみ始め、そして立ち行かなくなって、ついに子ども側から「継げと言ってくれ」という言葉が出てきた。象徴的だ。

・高津川って子どもの頃によく遊んだ四万十川に似ている。まあ「日本の綺麗な川」ってだいたい同じようなもんなのかな。

・最後、戸田菜穂さんが高津川のほとりに佇む甲本雅裕さんのとこに来て一言喋って去るシーンがあるんだけど、立ち去るときに「ちょ、待てよ!」みたいに声をかけるのではないか?と期待してしまった。でも、何も起きずに本当にいなくなる。これぞ、映画『高津川』だ、と思った。

・舞台挨拶の動画を見たら、インタビュアーの人が映画『高津川』を「9回も見てしまった」と言っていたけどよくわかる。何度でも見たくなる。ブルーレイが出たら絶対に買う。