極度のビール好きが専門外のワインを学んで率直に感じたこと


何がきっかけだったのかはもう覚えていない。
去年末くらいから思い立ってワインを学んだ。

と言っても、学校へ通うとかソムリエを目指すとか
そんな本格的なものではない。
入門本を複数冊買い込み、ノンフィクションの本を読み、
講座動画やドキュメンタリーを眺める程度。
もちろん、実際に色々なワインを飲んでみた。
ワインについては前知識がほぼほぼゼロだったので、
知的好奇心が次々に刺激されて楽しかった。

一時は「ビールよりワインの方が面白いな…」と
思ってしまうほどにのめり込んだ。
実際に、ワインの勉強をしている間はどうしても
ビールへの関心が薄くなってしまった。

勉強開始から3カ月が流れ、何となく基礎的な知識が頭に入り、
ワイン熱がゆっくり冷め、反対にビール熱が元通り高くなった。
ここで、NHK文化センターでビールの授業の講師を
務めたビール側の人間がワインを学んで何を感じたか?
まとめようと思う。

・フランスすごい!
まず一番感じたのが、ワイン界におけるフランスの突出した存在感である。
どの入門本を読んでも、ソムリエ講座の動画を見ても、
フランスの紹介にめちゃめちゃウェイトが占められている。

「ワインと言えばフランスでしょ?」
とは思っていたけど、ここまで中心国だとは思っていなかった。
数年前、フランスのリヨンを訪れたことがあり、そのときは
ワインには一切目もくれずビールばかり飲んでいたけど、
北はブルゴーニュ、南はコート・デュ・ローヌに挟まれたリヨンで
なぜワインを飲まなかったんだ!と後悔の念でいっぱいである。

・お酒は頭で飲んでいい!
「お酒は頭で飲んではいけない」という風潮ってある。
僕もビールを飲む際に「このスタイルの発祥はここで、
味にはこんな特徴があって、IBUとSRMは…」とか語られたら
「うるせー」と一喝するに違いない(たぶんしないが)。

飲むときもただ目の前の液体を邪念なく飲むのが良い、
と思っていた。
ところが、ワインでそんな飲み方をしても面白くない。
飲む前に「フランスの〇〇という地域の〇〇というブドウ種か…さて」
と飲むから面白い。

言ってみたら酒なんて全部アルコールである。
頭で飲むことでじっくり違いを知って味わえるなら、
それも悪いことではない。むしろ良いことだと思うようになった。

・ビールって味わいの幅が広い!
ワインは赤と白で大きく味が違う。
2つの基本軸があるところはビールと似ている。
ビールもエールとラガーに大別できるから。
ただ、ワインのなかでの違いというのは
そこまで大きなものに感じられなかった。
ブドウ種、収穫年、製法、熟成年…
飲むと違うのはわかるのだけど、
僕のような素人が飲むと赤なら「うん、赤ワインだね」
としか感じられない。
ビールは「苦い」「酸っぱい」「スモーキー」「トロピカル」
と違いがわかりやすい。

僕はやはり個人的にビールのこの
わかりやすさは好きだなと思った。

・ワインは試し飲みがしづらい!
色々なことを知り、色々なワインを飲んでみよう!
と意気込んだもののワインは1本が750mlであることが多い。
しかもアルコール度数は10%を超える。
ビールで言うなら、バーレーワインの750mlを飲むようなもの。
なかなか減らない。日々味わうのが目的だといいのだけど、
試し飲みが目的だとだいぶ持て余してしまう。

ビールはアルコール度数が低いにもかかわらず
330mlという少量がデフォルト。
めちゃめちゃ飲み比べを楽しむことに向いている。
ここに初めて気付くことができた。




・テイスティング指導をして欲しい!
ワインを夜な夜な一人で空けていると、
「ん?このワインは渋いのか?酸味が弱いのか?
はたまた飲みやすいのか?重厚なのか?」とか
よくわからなくなってくる。香りについても
ボキャブラリーがないし、評価の軸もないので、
「うん、赤ワインのいい香りだ」としか表現できない。

そんなとき、横でベテランの飲み手がいてくれたら
どんなに心強いだろうと思う。
もしかしたら自分が「このブドウ種はこんな味か…」と
納得していた味が「このワイン、傷んで腐敗してますよ!」
ってことだってあるかもしれない。

ビギナーの方を交えてビールを飲み比べするとき、
僕という20年選手の飲み手がいることは
もしかしたら価値のあることなのかもしれない。
そう思うことができた。

・知れば知るほど色々なワインを試したくなる!
これまで僕にとってのワインは、
「安ければ安いだけありがたい」というレベルのもので、
1000円以内のものから選び、その中で
まあ美味しいかorそんなに美味しくないか
というものだった。

ワインのAOC(原産地統制呼称 、平たく言うと
魚沼産コシヒカリの魚沼に当たる地名のこと)
を知れば知るほど色々なワインが飲みたくなってくる。
5000円くらいするようなものでも選択肢に入ってくる。
記念日なんかに高級なディナーをすることになったら
数万円のワインも候補に入ってくるかもしれない。
これまでだったら「もったいない!」と即却下していたはず。

ワインの価値。
知らなければ知らないで幸せかもしれないけど、
知れたら知れたでそれもまた幸せなことだと今は思う。

・ワインっておつまみがないと不完全だ!
さすがに太古から食中酒として飲まれてきたワインだけあって、
食事と一緒に合わせると美味しいし、楽しい。
ビールと違って炭酸がないのも良いところなのかもしれない。

ただ家族が寝静まった後、自分の趣味の時間に飲むお酒
と考えたとき、単体で飲むと味気ない感じがするワインは
個人的に(それを言ったらこの記事全部個人的な話だが…)
あまり向かない。
ビールやウイスキーは単体で楽しみやすいお酒だと思う。
つまみも一切なくて構わない。

ワインはなんでだろう、つまみなしで飲むと
不完全な感じがするのだ。食と切り離せない感じが
酒を独立したものとして楽しみたい派閥の
僕としてはどうしても減点要素になってしまう。

・ワインの知識は一般教養だ!
ワインのことを学んで、
「なんかこれまで耳にしたことはあったけど、
覚える気がなくてスルーした言葉が多いな」と思った。
いわゆる“立派な大人”だったら身に着けておくべき
知識やマナーがたくさんあった。

ある一定以上の階層の人にとって、
ワインの知識は一般教養だったりする。
(一定以上にいなかったから知らなかった…)
この点はビールと大きく違う。
エールとラガーのことがわからないからと言って、
社交界から白眼視されることなんてないだろう。

ビールの知識はマナーとしてではなく、
楽しむために付けるもの。
その気楽な感じがやっぱり僕は好きである。

最近、ビール仲間の富江さんがちょうどそんな感じの本を
出版したので紹介をしてこの記事を終えたい。

代表銘柄を解説しただけの入門書って案外多いけど、
僕は手抜きだと思っている。
その点、この本はビールについての基礎的な知識が
幅広く紹介されている。まさに良書だ(富江先生に
ビール一杯おごってもらうことを期待しながら)。

ビールの知識もいつの日かワインと同じように
オトナの一般教養になるのだろうか。