推しメンのために禁酒


 これまで人生を通して、「織姫と彦星が出会う日なんだろうけど、毎年いまいち天気がよくないよね」くらいの認識しかなかった七夕という日。今年からは次男の誕生日という特別な日になった。

 予定日は7月15日だった。

 6月の最終日である30日、夫婦間で重要な取り決めが交わされた。それは、「7月に入ったら飲酒禁止」。これはビール好きにとっては軽くヘビーな取り決めである。なぜそんなヘビールールを作ったか。理由は簡単、車社会だから。もし深夜に産気づいた場合、田舎では足が車しかない。そんなときに泥酔していたら、足としての役割を果たせない。ヘビーだがベビーのためには仕方ない。車社会の弊害が家族の出産前にもあるということは、体験者として身をもって指摘しておきたいところだ。

 7月からはケース買いした炭酸水にレモン果汁を絞ってみたり、ビールテイスト飲料を飲んだりして日々をやり過ごしていた。2週間は禁ビーを覚悟していたので、予定より8日も早く生まれてくれた次男は、生まれながらに親孝行な息子と言うことができる(親馬鹿ですがなにか)。生まれた7日の夜、1週間ぶりに飲んだビールのそれはそれは美味しかったこと…。禁ビーも悪くないとすら思った次第である。




 そんなわけで、忘れかけていた新生児の世話に奮闘する日々がまた始まっている。しばらくはノンフィクションの本を読むペースも落ちるだろうが、これもベビーのためには仕方ない。いや、そんなネガティブな感じではない。家族が一人増えるというのは、とても楽しくてワクワクすること。自分のやりたいことが後回しになることに、何の苦しさも感じない(禁ビーは若干ツラかったが…)。

 そう考えて、隔世の感を禁じ得ない。小さな頃から特に子どもが好きだったわけではなかった僕は、「将来、自分に子どもができたら、自分のやりたいことなんてできなくなるんだろうな」とぼんやり思っていた。むしろ、恐れていた。実際、20代の頃、子どもがいる先輩夫婦の家に遊びに行ったとき、「旦那さん、自由がなくて可哀想だったなあ…」と帰りがけに思ったことを覚えている。あれから10年以上が経ち、自分があの日の旦那さん的ポジションにいるわけだけど、可哀想な立場の正反対にいると捉えている。そして、こう思うのである。「子育てを差し置いてでもやりたいことって、そうそうあるものなのかな?」と。

 「いや、もちろんあるよ!」という人はたぶん本当にすごい人で、既に何かを成し遂げているか、あるいはこれから日本や世界や人類に貢献するに違いない人だ。「子育ても悪くないけれど、自分の時間をどうぞ最優先に!」と伝えたい。だが、僕のような凡人は「子育て>自分のやりたいこと」という不等式が成り立つ。

 昔、アイドルにハマる独身中年男性について書かれたコラムで、「人はDNAレベルで人の為に生きるようになっているんだ!」みたいな主張が展開されていて、「ああ、そういうものなのかもしれぬ」と膝を打ったことがある。例えば、アイドルのためにCDを何百枚も買うなんて正気の沙汰ではない!と思ってしまいがちだけど、実は人間としてみたらごく真っ当な選択をしているに過ぎない。人の為に生きているのだから。

 そう考えると、親というのは子どもを推しメンにして時間とお金を使って嬉々としているようなもので、構造はアイドルファンと何も変わらない。発表会(保育園の)に駆け付け、「かって~!」と言われたもの(おもちゃなど)を貢ぎ、写真を日々撮り続けて大事に眺める。子どもとのスキンシップは、アイドルとの握手に当たるだろうか。

 家に同じCDが何百枚もあるわけではないけれど、子どもの写真は何百枚じゃきかないくらいたまっている。卒業(独立?)までに何千枚になるんだろうなあ。

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