20歳の誕生日の過ごし方~私を裁かないで~


 

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 法律の上でお酒が飲めるようになる20歳の誕生日。この記念すべき日にどこで何をしたのか、はっきり覚えている人は意外と少ないかもしれない。20歳当時の僕もそう考えていた。何か特別なことをしなければ、きっと忘却の彼方へ消えてしまうのだろうな、と。

 20歳を数か月後に控えていた僕は、新聞でSTINGの来日コンサートの広告を見つけていた。高校2年の頃から好きになったSTINGが、ニューアルバムのツアーで日本にやって来る。これは絶対に行かねば、とすぐには思わなかった。というのは、前作の『Mercury Falling』があまりにも好き過ぎて、リリースされたばかりのアルバム『Brand New Day』がいまいちに感じられたから。そして、ライブの日が僕のちょうど二十歳の誕生日だったから。

 新聞を見たとき、僕に彼女はいなかった。が、誕生日の頃くらいには彼女ができているだろう。二十歳の誕生日は彼女に祝ってもらえるはず。そう信じて疑っていなかったが、日々は淡々と過ぎ去り、2000年10月14日当日を迎えた。一人で。それは、人生の一大メモリアルデーでも何でもなく、この上なく何の変哲もない一日だった。僕は危機感を覚え、何をしようかと模索した。いや、実は模索していない。8月、9月と自分の誕生日が近づくにつれ、「一人でSTINGのライブに行くことになるのかなあ」と観念していた。

 午後、電車に乗ってパシフィコ横浜へ。当然、チケットは持っていない。淡くビビりながら、その筋のチケット屋さんに声をかけてみることに。すると、なんとアリーナ席が定価で購入できた。喜び勇んで会場に入ると、来場者の年齢層の高さに驚いた。確かに当時、僕の周りでSTINGを聴いている人は皆無だったけれど、ここまで会場がアダルトな雰囲気だとは思わなかった。

 およそ2時間のライブ。やはりあまり聴きこんでいないアルバムのツアーだっただけに、席はよかったもののインパクトは弱かった。MCもほぼなく、まさに淡々と時間が過ぎていった。とはいえ、憧れのアーティストと同じ時を共有した感動は大きかった。会場の外に出ると、目の前には二十歳の誕生日の夜が広がっていた。

 余韻に浸ろう。と、僕は桜木町駅にほど近い薄暗いカフェバーに入った。注文したのはカールスバーグのドラフト。手持ち無沙汰だったのでタバコを吸った。桜木町の煌びやかな夜景を眺めながら、カールスバーグを飲んでいると、女性が近付いてきて「STINGのライブに行かれたんですよね?私もさっき観に行っていたんです。ご一緒していいですか?」と声を掛けてきた。テーブルの上にライブ会場でもらったチラシを置いていたので、それで女性は僕がライブを観に行ったとわかったのだろう。女性は遠慮しながらも向かいに座った。店で女性から声を掛けられるなんて生まれて初めての経験だった。

 年齢は自分の父と同じだった。昭和24年生まれ。二十歳の世間知らずとはいえ、「失礼ですが何歳ですか?」と聞くことはないだろうから、おそらく女性から切り出したのだろう。女性はSTINGの魅力について語った。そして、「“私を裁かないで”っていう曲が一番好きなんです」とその曲の魅力について話し出した。前述のように僕はニューアルバムを聴きこんでいなかったので、正直に「そんな曲ありましたっけ…」と返した。彼女は「ほら、サビの歌詞が“私を裁かないで”っていう曲。覚えてません?」と残念そうな顔をした。僕は「すみません」と言って、カールスバーグのお代わりをした。

 STINGの話から家族の話、大学生活の話などを1時間くらいし、僕らは店を出ることに。お会計は女性が出してくれた。店の外に出ると、秋のにおいがした。女性と別れて帰宅し、僕はすぐにアルバムを再生。「私を裁かないで」は「Don’t judge me」という歌詞で、曲のタイトルは「Tomorrow We’ll See」だった。以来、この曲を中心に僕はニューアルバムを聴きこむようになった。

 以上が僕の二十歳の誕生日に起きたこと。あの頃、大人になると女性の方から声を掛けてくることもあるんだ。と夢を膨らましていたけれど、以来、知らない店で一人酒をしているときに女性から声を掛けられたことは一度もない。淡い期待を抱いていた私を裁きたいところである。

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