「クラフトビール」は「地ビール」を駆逐するのか?


 

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 今月中旬、キリンビールが「クラフトビール」のブランドを立ち上げると発表し、話題となっている。ビール好きではない一般の人は「クラフトビール」と「地ビール」はどう違うのだろう?と思ったのではないだろうか。

 結論から言うと、「クラフトビール」と「地ビール」は現状イコールである。「スチュワーデス」と「CA」みたいなもの。意味するところは、とどのつまり「大手以外が造るビール」に集約される。では、なぜ「地ビール」という呼称があるのに、「クラフトビール」という言葉が生まれたのか。

 1993年、「規制緩和」という言葉が流行語部門で金賞に輝いた。大手5社の寡占状態だったビール業界に「規制緩和」の波が押し寄せたのは、その翌年の1994年のこと。免許交付のハードルが大幅に下がり、日本中で小規模な醸造所が誕生。大手とは違ったスタイルのビールをメインに造りだした。このとき、「地酒」にあやかって「地ビール」という名前も同時に生まれた。「地ビール」は地方の新たなお土産品として全国的なブームとなった。

 ところが、である。「ビール=アルコール度数の低い金色のすっきりした飲み物」と思っている多くの日本人に、別のスタイルを受け入れる下地はなかった。また、技術力の低い醸造所も多く、さらに大量生産できるわけではないため値段は高かった。いつしか「地ビール」は「クセがある、マズイ、高い」というイメージがまとわりつくようになった。2000年代初頭の頃だろうか。僕がお酒を飲み始めた当時は、完全な地ビール冬の時代だった。

 そんなマイナスイメージのある「地ビール」という表現を避け、2005年頃から「クラフト(手工芸品)ビール」という言葉に置き換える動きが出てくる。「地ビール」というネーミングに無理があったとも言える。モルトもホップも輸入品、地のものは水だけという醸造所がほとんどだったからである。また、「CRAFT BEER」という言葉が世界的な市民権を得ていたことも大きい。かくして現在のようなややこしい「クラフトビールと地ビールの混在状況」が発生しているのである。

 「大手ではないビール」が「地ビール」と呼ばれ、時間の経過とともに「クラフトビール」と呼ばれるようになった。そして、今。大手が「クラフトビール」を造る、と宣言している。今後、「クラフトビール」は「大手ではない」という意味を失って、「職人の顔が見えるこだわりの少量生産ビール」という意味で定着するだろう。

 では、「地ビール」という言葉は消えてしまうのだろうか。

 短い期間ではあるものの僕が勤務していた「大山Gビール」には、自社畑で収穫したホップを使う「ヴァイエンホップ」、大山産大麦を使用した「大山ゴールド」、地元八郷地区産の酒米・山田錦をブレンドして造る「八郷」という地元の恵みを活かした季節限定ビールを取り揃えていた。こうした取り組みを間近で見ていると、これはまさに「地ビール」ではないかと思い至った。言葉に実態がようやく追いついた、と思ったのである。

 また、シンガポールのビアバー「JiBiru Japanese Craft Beer Bar」のオーナーさんいわく「地ビール」という言葉はアジアのビールファンの間で浸透しつつあり、他の国のクラフトビールとは別の「日本のクラフトビール」を一語で表現できてしまう言葉なのだそう。
 
   
  
 今や古臭さを感じてしまう「地ビール」という言葉。僕は「クラフトビール」に一本化してややこしさがなくなって欲しいと思う反面、消えてしまうのももったいないと思うのである。