酔いを劇的に覚ます唯一の方法を知ってしまった話


 お酒を飲んで気分が悪くなったとき、人は何をしてその状態から脱するのだろうか。夜風に当たる、水を飲む、温かいものを飲む、横になる、顔を冷やす、シャワーを浴びる、あたりだろうか。ただ、そのいずれにしても即効性はない。快方に向かうことはあっても、すぐに元の状態に戻ることはない。ところが、唯一すぐに効く方法がある。

 20代の頃、ベルギービールのバーに通っていた。当時はビールのスタイルなんて何もわからず、「よくわからないけどベルギーのビールって、アルコール度数が高くて美味いなあ」とラベルを眺めて適当に選んだり、店員さんに勧められるがままに飲んでいた。

 ある夜、男女数人で飲む機会があった。僕の隣に座った女性は、それまでに何度か顔を合わせたことはあったけど、きちんと話すのはその夜が初めてだった。よく飲むお酒の話を互いにしているうちに彼女はベルギービールに興味を持ち、「お店に行ってみたい」と言い出した。そして、ビアバーへ行くことになった。二人きりで。

 僕は何もわかってないくせに先輩風を吹かして、得意げにビールを語っていた。今から考えると恥ずかしい限り。女の前で「箕面ビールのIPAを1pint」を「みめんビールのイパを1ピントで」と注文してきた男がいた、というエピソードをあるビアバーの店主から聞いたことがあるが、多分それに近い感じだったと思う(ちなみに、その店主は男に「みめんビールのイパ1ピントです!」と出してあげたらしい)。

 アルコール度数が10%に近いビールを調子に乗ってがぶがぶ飲んだ結果、僕は気分が悪くなってしまった。やばいと思いながらも会計を済ませ、外へ出た。夜風を浴びても一向に気分の悪さは消えない。

「もう駄目だ。10秒後くらいに吐いてしまう…」

 そう思って街路樹の茂みの方へ足を伸ばそうと思った瞬間、唇が何かにぶつかった。それが女性の唇であったことを認識するのに5秒くらいかかった。え?なんで?と思った途端、興味深い現象が僕を襲った。吐く寸前だった程の気分の悪さがみるみるうちに消えていくのである。そして、最後にはほろ酔い程度になっていた。魔法の回復力だった。

 女性はそのまま駅に向かい、置き去りにされた僕は夢でも見ていたかのように夜の雑踏に一人で佇んでいた。以来、その女性と顔を合わせたことはない。あのとき、女性は酔いを醒ましてあげようという意思を持ってあの行為に及んだのだろうか。いや、そもそも不意を衝いた口づけが酔いに効くということを知っていたのだろうか。今となっては謎が深まるばかりである。

 いずれにしても、「本当にそんなに効くのかな」と思った方は、気になる異性にいつか試してみてはいかがでしょう。タイミングを誤って顔に盛大にやられたらごめんなさい。

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