なぜここに?鳥取にめちゃめちゃクラフトビールを取り揃えた酒屋がある
山陰地方に住むビアギーク(極度のビール好き)達は僕を含めて、
ほとんどの人がネット通販を利用してビールを手に入れている。
近所に面白いビールを置くお店がないからだ。
ところが、少し前に「すごい酒屋がある」という噂が耳に入った。
本当かな?と半信半疑で僕はその酒屋を訪れてみた。
店内の一角がクラフトビール天国に…。
目指したのは鳥取県中部の北栄町。店の名前は「酒のたなか」。
実際にたどり着いても感動はない。なぜなら外観はいたって普通の酒屋だからだ。
中に入ってもその思いは変わらない。
ところが、店の一角に移動して僕は衝撃を受けた。
アメリカのクラフトビールをはじめ、ブリュードッグやミッケラー、
国内からも地元のAKARIブリューイングと今をときめくうちゅうブルーイングの
ビールがびっしりと並んでいるのだ。
これほどの珍しいビールを揃えるお店は鳥取や山陰はもちろん、
中国地方全体を見渡してもそうそうないはずである。
酒のたなか おそるべし…。
一体店主はどのような人で、どんな考えをもとにここまで
ビールを集めたのだろうか。気になったのでインタビューをしてみた。
しっかり情報収集をして仕入れるビールをチョイス。
お話を伺ったのは田中潤平さん。1986年生まれ、32歳の青年だ。
現在、店には100種類近くのビールを置いていると話す。
「いくつかのインポーターさんからビールを仕入れていて、90から100種類くらいの商品を置いています。国内のビールは今のところAKARIさんとうちゅうさんの2軒だけです。県内全域からクラフトビール好きの方がいらっしゃいます。東は八頭の方から、西だと島根の出雲辺りから来ていただいています」
そりゃそうだろう。ビール好きにとっては、眺めているだけでも楽しいのだから。一体どんな基準でビールを選んでいるのだろうか。
「インポーターさんから来る案内文を読みながら、“うちのお客さん、喜ぶだろうか?”といつも考えています。既存の商品だったら過去に仕入れたときのお客さんの声を思い出しますし、新作だったら一本自分で買って飲んでみます。あと造り手の姿勢や情熱も大事ですね。RateBeer(※世界最大級のビールレビューサイト)も見ます」
造り手のサイトやRateBeerまでチェックし、実際に100種類もビールを並べてしまうこの店主、一体なぜビールがここまで好きになったのか。興味を持ったので聞いてみた。
兄を頼って単身渡米、あるビールとの出合い。
話は潤平さんが高校の頃に遡る。と、言ってもこのときにビールを飲んだ、という話ではない。
「僕には兄がいまして、兄がアメリカに留学していたことがありました。僕は当時、高校生だったのですが夏休みを利用して渡米したんです。マンハッタンやブルックリンなんかを兄に案内してもらって、“ニューヨークっていいところだな”と強く思いました。それから東京の専門学校を出て埼玉のドラッグストアで働いている頃、その兄が結婚して東京に住むことが決まりまして。じゃあ、僕がお店を継ごうとこちらに帰ってきました」
潤平青年25歳のときである。Uターン後、家業の酒屋で見習い期間を過ごす。店番や配達、勉強会や地域の集まりについて回る日々。そんな中、一本のビールと出合った。それが、ブルックリンラガーだ。
「高校時代にブルックリンを訪れていたので、たまたま見つけたとき“あ、飲んでみよう”とすぐに思ったんです。で、実際に飲んだら香りもあるし味わいも深い。日本のラガーと全く違う!と衝撃を受けました。それからビールの本を何冊か買い、そこに載っていたブリュードッグのパンクIPAを飲んでみたらこれまた美味しくて…。それからお店にブルックリンラガーやブリュードッグを置くようになりました」
それが2014年、今から5年前くらいのこと。以後、少しずつ商品が増えて今に至る。気になったことを質問。ご両親は息子がよくわからないビールをたくさん並べることに反対しなかったのだろうか?
「いえ、特に何も言われなかったですね。好きにすればいいと言ってもらえました。自分自身も特に心配していませんでした。ただ、賞味期限が迫ってくると焦るんですが(笑)。SNSやイベント出店などで少しずつ色々な方に知っていただこうと頑張っています」
実はビールだけではなく、ウイスキーの品揃えも素晴らしい店内。
いつかAKARIブリューイングとコラボビールを。
2014年以降、地道にビールの品揃えを増やすなか、転機が起きた。2018年のAKARIブリューイングの創業だ。
「AKARIさんのビールを置くようになって以来、お客さんが増えました。AKARIさんのビールをきっかけにビールの世界にハマってくれる方が増えた結果、売上もよくなりました。口コミのお客さんも増えました。ここ1年くらいで売場も大きく変わりましたね」
店内の一角にはビールグッズ売り場も。レアアイテムもズラリ。
なんと素晴らしいことだろう。地元にブルワリーができた結果、そのビールを置く酒屋にも波及効果が起きていたのだ。潤平さんはいつか、AKARIブリューイングとコラボビールを造ってみたいと夢を語る。
「いつかAKARIさんと組んでオリジナルビールを造ってみたいですね。まだ僕の頭の中だけの話ですが、瓶じゃなくて缶がいいなと思っています。スタイルやネーミングは未定ですが屋外で気軽に飲めるような、BBQのお供になるようなビールがいいなあなんて勝手に思っています」
クラフトビール会社と地元の酒屋のコラボ…夢が広がる!
山陰、いや中国地方在住のビール好きの方、知らなかったら確実に損をしています。何はともあれ北栄町の酒のたなかに行きましょう!
酒のたなか(有限会社田中知義商店)
〒689-2202鳥取県東伯郡北栄町東園288-1
http://sake-tanaka.jp/
TEL.0858-37-3733
FAX.0858-37-3904