山陰でビールの講師を務めてみてハッキリわかった人間のこと
「講座ご開講のお願い」
という予期せぬ件名のメールがNHK文化センターから届いたのが2015年の6月。話し合いの末、その年の10月に初めてビールの講座というのを開いてみた。それから約3年。なんだかんだ月に1回くらいのペースでやってきた。NHK文化センターだけではなく別のカルチャースクールや団体からも声を掛けてもらい、米子や鳥取を中心に出雲、大阪、京都でビール講座を務めてきたことになる。
振り返ってみて率直に思うのは、ビールについてお金を払ってまで学びたいという人はまだまだ少ないということ。特に山陰両県はその傾向が強い。国内で何度かのブームを迎えているワインについては「学ぶ」という下地がはっきりあるし、実際に受講生も多い。ところが、「ビール」と「学ぶ」はなかなか結び付かないのである。
色々な講座を考えてはとりあえずやってみる、というプチトライアルを繰り返した結果、一つはっきりしたことがある。それは、フードを絡めると受講生が増える、という法則。これまでで言うと、スモークおつまみとビール、パンとビール、ペアリング講座などの講座は注目度が高く、受講生が多かった。
これは僕にとっては割に不本意なことだった。というのは、基本的に自分はフードとビールを合わせるよりビール単体で味わう方が好きだから。講座の内容について試行錯誤するなかで「じゃあ今度はフードを前面に出したものでもやってみるか…」と何となく始めたものがたまたま当たったのである。
「ビールを学びたい!」という積極的な人はやはり今でも少ないのだけど、「何か美味しいものを食べながら一緒にビールを飲んで、ついでに色々勉強できたら楽しそう!」と考える人は思いのほか多い。美味しいもの5、美味しいビール3、学び2 くらいの割合でちょうどいい。この事実にようやく気付くことができた。僕はそもそもビールポリス(※ビールに関する記事内の誤りを鬼の首を取ったようにSNSで発信する人のこと)になりがちなマニアより、ビギナーや楽しむためにビールを飲む人の方が好きだし、そういう人を相手にしたい。
講師を始めたばかりの頃、「5大国ビールを飲もう!」という講座を立ち上げたことがあった。僕としてはドイツ、ベルギー、チェコ、イギリス、アメリカといった本場の国々のビールを一度に飲めたら楽しいだろうと思ったのだけど、さっぱり人が集まらなかった。今だったらその理由がわかる。ビールにストイック過ぎるのだ。もうそんなビールビールしたビール講座はしなくていいかと思っている。
僕自身はフードとビールを合わせることにそこまで積極的になれないのだけど、世の多くの人が「まず美味しいものを食べたい」と思っている以上、僕はそこに合わせていかなければならない。例えば、「お取り寄せつまみとニッポンのビール」とか「スイーツとビールを合わせてみよう!」「プロースト!ドイツの郷土料理&ドイツビール」「チーズとビールのペアリング講座」「多彩なソーセージと多彩なビールの組み合わせ」なんて講座はこれまでの経験上きっと人が多く集まるに違いない。
早く自分なりのペアリングメソッドを開発して、僕にしかできない講座を開こうではないか。