ヤッホーブルーイングと谷川俊太郎が重なって見える(僕ビール、君ビール。よりみち/ヤッホーブルーイング)
最近、色々なところでビールの初心者向け教室を開講させてもらっている。当然、そこに来るのはビール感度の高い人で、「よなよなエールが好き」という人が多い。コンビニに並ぶというのはやはり大きいのだな、と実感する。
よなよなエールをリリースしているのは、星野リゾートを親会社に持つヤッホーブルーイング(2014年にはキリンと業務・資本提携)。最近、井出社長が本を出すなど、今最も勢いがあるクラフトビールの会社だ。本の出版もそうだし、「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」といった奇抜な商品を出したり、「超宴」という屋外イベントを開催したり、世界観のあるWEBショップを作ったり、SNSを意識した広告を展開したり…歴史が浅いのになぜか総じて保守的な日本のクラフトビール業界にあって、実験的な試みが多い会社だと思う。
あっちに行ってもこっちに行ってもどの会社ともバッティングせず、自由に動けるのはさぞかし痛快なことだろうと推測する。その姿は戦後の現代詩をリードした詩人、谷川俊太郎氏を彷彿とさせる。少なくとも僕には。詩作に取り組んだことのある者は独自のアイディアがひらめいた!と思った後、苦い顔でこう呟いたことがあるはず。
「なんだ、もう谷川俊太郎がやってるじゃん…」。
同様に、これから日本のクラフトビール会社が色々なことを思いついても、「なんだ、もうヤッホーがやってるじゃん…」ということになるはず。
というわけで、新作の『僕ビール、君ビール。よりみち』だ(前段が長過ぎるというツッコミは自重)。色は薄くて、まるでアメリカのライトラガーのよう。ところが、香りの個性はそれと180度異なる。
パッションフルーツのようなとか、柑橘系とか言われているけど、ペレットホップを直で嗅いだときそのままの香りがする。これは悲しい。パクチーのエキゾチックな香りを多彩に表現できた人が友人の「カメムシの匂いだね」の一言でもうカメムシの匂いにしか感じられなくなったのと同様、ホップの香りを知ってしまうとそれ以外に形容できなくなってしまう。
一口飲むとそこそこ苦いけど、柔らかな苦みであり、そんなに長続きせず優しくフェードアウトしてしまう。アルコール度数は4.5%と軽めで実に軽快。華やかなホップの香りは続き、うっすら残る苦みと相まって、余韻が長く楽しめるのが特徴と言えるかもしれない。文句なく美味。リピート決定である。
調子に乗って2本目に突入したところ、後半はやや飲み疲れした。ホップの蓄積だろうか。週末、穏やかな昼下がりに一本だけ飲もう。そんなときにはベストチョイスだと思う。これが地方間格差なくコンビニで買えるのだから、いい時代になったもんだ。