10年前に一度ハゲかけてよかった


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 少し前、復活したM-1グランプリでトレンディエンジェルが優勝した。2本とも面白かった。ハゲネタだけではないけど、ハゲという自虐ネタを軸にしてよく漫才師のチャンピオンになれたなと感心してしまった。
 全く知らないけど想像するに、彼らも最初に自分がハゲだしたことに気付いたときは相当ショックを受けたのではないだろうか。

 今でも鮮明に覚えている。僕の頭は2005年の夏前にハゲかけた。ちょうど10年前の話だ。

 当時、24歳だった僕の生活は、一人暮らしということもあって乱れていた。特に食生活がひどかった。朝は食べず、昼はカップラーメンやファーストフードで、夜は牛丼。これが定番だった。野菜などのサイドメニューを食べる意味がわかっていなかったしお金もなかったので、カップラーメンや牛丼は単体の食事で済ませていた。

 連日ビールを浴びるほど飲んでいたし、タバコも1日1箱は吸っていた。2箱吸うこともよくあった。寝る時間は早くて午前2~3時。遅いと朝6~7時のこともあった。しかも、飲んで家に帰って風呂も入らず、そのまま寝てしまうことも多々あった。会社がうるさくなかったのをいいことに、朝は11時前に起きてシャワーを速攻で浴びて電車に飛び乗り、11時半くらいに出社していた。運動は一切していなかった。まさに自堕落を絵に描いたような生活を送っていた。

 そんなときである。自分の頭頂部が薄くなっていることに気付いたのは。きっかけは友人が撮った写真。あれ?と思い、自分のケータイで撮ってみると間違いなく薄くなっていた。その瞬間、目の前が真っ暗になった。祖父はハゲていたからいずれ来るかもしれない、とは思っていたけど、24歳は早過ぎると愕然とした。それに、もしハゲるなら前からだろうという根拠のない予想図があったので、頭頂部からの薄毛化は寝耳に水だった。30歳を迎える頃には、ピカピカの頭になっているかもしれないと本気で心配していた。軽い鬱にすらなっていたような気がする。

 それからハゲのことを調べまくった。結果わかったのは、髪にいいことを一つもしていないということ。まだハゲたくない…。この一心でまず食生活を改善した。ファーストフードを極力避け、定食をメインにし、バランスを心掛けるように。また、運動をしようと歩くようにし、その日のうちにシャワーを浴びて無駄な夜更かしを止めるようにした。酒とタバコは止めなかったけど、どちらの量もかなり抑えるようにした。

 ところが、何も変わらない。でも、抜け毛が増えるよりは維持の方がましかもしれない。そう思って新しい生活を続けていた。こういう生活を構成する日常的なことというのは、慣れると意識しなくなってくる。いつしか、食生活を改善し運動を取り入れた生活は当たり前になった。そして、あるときにふと気付いた。あ!ハゲかけがなくなってる、と。

 現在、35歳でハゲてはいない。しかも、すこぶる健康である。24歳で絶望に浸っていた自分に教えてあげたい。
 今振り返ってみると24歳の頃、ハゲかけてよかった。あのままの生活を送り続けていたら、僕は病気になったり、もっと深刻な状況に追い込まれていた気がする。ハゲかけたおかげで、生活を一新させようという気持ちになった。結果、健康な体を手に入れただけではなく、精神面でもポジティブになれた。たぶん、どうでもいいやと思って食事をすると、人間は自分がどうでもいい存在に思えてくる。体をケアしないと、自分はケアするに値しない人間なんだと錯覚してしまう。精神面の改善という副産物は予想外のことだった。

 それにしても、「健康になりたい」とか「長生きしたいとか」○○したい!側のモチベーションでは、こんな改革を自らにできなかっただろう。ハゲたくない、みたいに○○したくない!側の脱却系のモチベーションって、爆発力があるなあと改めて思う。