米子にブルワリー誕生!JAPBreweryが世界進出を視野に入れていて期待大



山陰を代表する商都でありながら、
ビールの醸造所には恵まれなかった鳥取県米子市。
2018年、ついに一軒の醸造所が産声を上げた。
その名もJAPBrewery。
世界を見据えたこの醸造所の現在地とは。
会社代表と造り手にそれぞれ話を聞いた。
(右:代表取締役の落合さん、左:醸造リーダーの樋本さん)

クラウドファンディングで目標を大きく上回る資金を調達。

それは、期待の表れに他ならなかった。

今年、5月末。JAPBreweryはクラウドファンディングを通じて、瓶詰め機の購入費用300万円の資金調達を試みた。蓋を開けてみると、集まった額は745万750円。実に目標の倍以上の調達に成功したのである。この額に運営会社の有限会社 THINK&CO.代表取締役の落合拡朗さん(41歳)は「目が点になりましたね…」と率直な気持ちを口にした。

「滑り出しはそんなに良くなくて当初、成功率は五分五分と伝えられていました。そこから地元メディアに取り上げていただくなかで、米子に恩返しがしたいという方が現れるなど目標の期間の半分で達成することができました」。

その後、「キッチンカーの購入資金」というネクストゴールをクリアするタイミングでビールの醸造に入った。事前に島根県の石見麦酒の指導を受け、チェストフリーザーとビニール袋の熟成タンクがトレードマークの石見式を採用している。8月からデパートの屋上ビアガーデンで提供を始めたのを皮切りに、県内外のイベントに出店しながら次のステージに移り始めている。落合さんは、年内の目標をこう話す。

「遅れていた瓶詰め機の導入がようやく11月に行われます。併設のパブは12月中旬には完成予定です。12タップを予定していて、4つは僕ら、4つは山陰の他のブルワリー、他の4つはゲストビールをと考えています。席数は1階50、2階30ちょいで80席くらいになりそうです」。

工事の真っ最中のブルワリーに訪問。冷蔵庫型の熟成タンクが並ぶ。

地元の企業とコラボレーションしたビールを企画。

JAPBreweryは「ジャップブルワリー」と読む。日本人の蔑称として避けられがちなこのワード。代表の落合さんはポジティブな意味で捉えて付けたと話す。

「もうシンプルに明るく、ポジティブな意味で付けています。JAPという単語は国によって“日本人っぽいもの”“繊細”“精密”という良い意味で使われたりもしています。賛否はあるかもしれないと思いましたが、今は我々がJapという言葉を新しく定義していくんだという意気込みでいます」。

そんな落合さんの熱意でブルワーとして招かれたのが、大阪出身の樋本文徳さん(39歳)だ。

元々、大阪のカフェに勤務していた樋本さん。店で提供しているヒューガルデンやバスペールエールがきっかけでクラフトビールに興味を持ち、3~4年程前から自分で造りたいと思うようになった。

「働いていたのは家具屋併設のカフェだったので、よく工場を見てたんです。それもあって自分も造ってみたいと考えるようになったんだと思います。幸い大分のくじゅう高原でビール造りができることになり、大分に移り住みました」。

無類の旅行好きでもあった樋本さん、大分で半年間醸造の勉強をし今年の6月に鳥取にやって来た。

「鳥取は砂丘のイメージしかありませんでしたが、ビール造りができればどこでもいいと思ってました。個人的にライトなビールが好きなので、全体的にアルコール度数は低めにしています。仲間のスタッフの家がシソを作っているのでそれを使ったシソペールエールや、老舗の長田茶店の紅茶を使ったビール、安来の有名店カフェロッソのコーヒー豆を使ったポーターなど色々コラボしたりして造っています」。

樋本さんに理想のビール造りを聞くと、「どれを飲んでも当たり外れなく全部美味いのが理想です」との答えが返ってきた。

クラフトビールのメッカ、ポートランドに行くほど旅もビールも好きな樋本さん。

世界で勝負。そこから逆算して全てを練り上げた。

JAPBreweryが誕生したのは、クラフトビールで米子を元気にしたい、ワクワクさせたい、米子を誇りに思ってもらいたいという思いがきっかけの一つだが、それには代表の落合さんのこんな思いがある。

「私は生まれも育ちも米子ですけど、米子って本当に何もない。空白なんです。鬼太郎は境港、大山は大山町、砂丘は鳥取市、出雲大社は出雲、足立美術館も安来…。でも、こういう自治体って実は全国に結構多いのではないかと思うんです。そんな自治体を元気にするスキームを我々が作り上げて、他にも提供できたらいいなと思っています」。

ブランド名も米子から採った「475ビール」にするなど地元愛は強い。一方で、JAPBreweryは立ち上げ当初から海外市場を視野に入れている。全国的にローカル販売のみの小規模ブルワリーが増加するなか、この海外志向は珍しく映った。落合さんは語る。

「まだ地元にも定着していないのに笑われてしまうかもしれませんが、設立時から外国で販売することを考え、そこから逆算して全てを組み立てています。ブルワリー名やブランド名もそうですし、ロゴを和風の印章のようにしたのもそうです。香港、シンガポール、台湾などに日本の米子のビールの美味しさ、カッコよさを伝えていきたいですね」。

まずは11月の瓶商品発売、12月のブルーパブオープン。その先にJAPBreweryの夢が広がっている。彼らの挑戦を近くで見られることを僕は嬉しく思う。

建設中のブルーパブ。475ビールのテイスティングセットも楽しめる予定だ。