厳選!ビールの味わいの多様性が端的にわかる6スタイル


 今秋、NHK文化センター鳥取教室にて、ビギナー向けのビール講座を持たせてもらった。話す内容はすぐにまとまったのだけど、テイスティングの時間に飲んでもらうビールの選定にかなり悩んだ。

 目的は「ビールの味わいの多様性を伝えること」と、これは重要だと思うのだけど「同時に美味しさも伝えること」。色々な味があるけどどれも美味しくないな…では意味がない。理想の反応は「ビールって味わいが多彩で、しかもどれも美味しい!」である。

 6種という数字は勘で決めた。あとはどのスタイルをチョイスするか?シンプルなようでいて難解なパズルを解くように、僕が何も参考にせず独りであーでもないこーでもないと延々入れ替えを繰り返して至った結論は…

 1 ヴァイツェン
 2 レッドエール
 3 ブラウンエール
 4 IPA
 5 トラピストビール
 6 ラオホ

である。僭越ながら、以下で一つひとつの選定理由を挙げていきたい。

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1 ヴァイツェン=苦くない枠

 昨今のクラフトビールブームの中でも、やはりまだまだ多くの人は「ビール=苦いもの」と思い込んでいる。大麦だけでなく小麦も使った、「バナナのような香り」と例えられることも多いヴァイツェンは驚くほど苦みが弱い。度数も高くなく、軽快な飲み口なので1杯目にも向いている。同様に小麦を使用したベルジャンホワイトも有力だったが、ベルギービールが全体の半分を占める事態を避けるため選外とした(ヴァイツェンはドイツ生まれ)。

 

2 レッドエール=酸味枠

 続いては、「ビールって酸っぱいものもあるんだ!」と驚いてもらう一本。チョイスしたのは、ベルギー西フランダース生まれのレッドエールだ。オーク樽などの木樽で熟成させるのだけど、その内側に乳酸菌があることから酸味が強い(野生酵母の影響もある)。完全に野生酵母を使ったランビックというスタイルももちろん候補だったが、酸っぱ過ぎる懸念と、レッドエールの鮮やかな色のインパクトが高ポイントとなった。

 

3 ブラウンエール=モルティー枠

 ビールの主な原料であるモルト。最近はホップの勢いに押されがちだけど、しっかり麦感のある一本はビールの王道という感じがする。正直、僕個人はあまりこのスタイルの甘みを好まないのだけど、ビギナーの方にはモルティーなビールを一度味わって欲しかった。エール大国、イギリスという国の特徴を体現する意味でも外せないと僕は判断した。

 

4 IPA=苦み枠

 IPA(インディアペールエール)は一番手っ取り早く「ビールの味わいの多様性を伝えること」と「同時に美味しさも伝えること」ができるスタイルだと思う。かなり苦いのだけど、それを下支えするモルトの甘みも同時に感じられる。特にアメリカ産ホップに多い柑橘系の香りも、飲んだことのない人に衝撃を与えてくれる。度数を下げたセッションIPAやIPAのホップ弱い版、ペールエールはキャラ立ちが弱いので選ばなかった。

 

5 トラピストビール=フルボディー枠

 厳密にはスタイルとは言えないものの、トラピストビールの存在はビール全体の世界観にも重さを与えてくれていると思う。いわゆる修道院ビールだけど、資格を有した醸造所しかトラピストビールとは名乗れない。味わいの特徴は度数が高く、どっしりしていること。味も香りも複雑で奥ゆきがある。フルボディーでチビチビ飲むビールの代表として、バーレーワインやボックと悩んだけど、こちらの多面的な重厚感は捨てがたかった。

 

6 ラオホ=なんじゃこりゃ枠

 教科書的に言えば、トラピストビールが締めにふさわしい。が、最後にダメ押しのように「やっぱビールって面白いな~」と思ってもらうためにラオホをラストチョイスした。むしろ個性が強過ぎるので、途中に挟むのは怖いスタイルとも言える。モルトを燻製した一本はベーコンとも合う、まさにスモーキーな味わい。「なんじゃこりゃ!?」と驚いてもらうだけでも十分価値がある。

 

おしまいに

 というわけで、実際に受講者の皆さんに飲んでもらったわけだけど、「次から次へと違った味わいが出てきて面白かった」とか「どれも美味しかった」といったポジティブな評価をいただけた。個人的な興味から、好きな順番を付けてもらったのだけど、トラピストビールの評価が一様に高めである以外は皆さん全く異なった。ラオホを堂々の1位にした女性もいて、こちらがびっくりしてしまった。

 当然、異論はあるだろうけど、この6本を順にテイスティングすれば、普通の人ならビールの世界観がガラッと変わると思う。ビール好きがビギナーの方を奥深きビアワールドへいざなう際の一助になれば幸いである。