大山Gビールで一緒に働いた入山くんがついに独立する話
2013年が随分と昔のことになっている。
当時よく流れていたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のMVを今見ると、もはや主要メンバーが誰も残っていなくて時の流れに愕然とする。back numberの「高嶺の花子さん」も流行っていた。2013年7月に鳥取に移住した僕は短い間ではあったけれど、大山Gビールに勤めさせてもらっていた。樽のビールを瓶に詰め替える時間に、20代前半の若手スタッフが自分の好きな音楽を流していて僕はback numberを知った。今でも「高嶺の花子さん」を耳にすると瓶詰めルームの記憶がよみがえる。
ちょうどその2013年の夏、僕とほぼ同じタイミングで入山君という岐阜出身のブルワー志望者が入社し同僚として仲良くなった。彼は普段は醸造の仕事に携わることができず、瓶詰やらラベル貼りやら樽の洗浄などの業務をこなし、終業後に岩田工場長を捕まえては色々ビール造りについての質問をしていた。モチベーションはとても高く、ある意味で入山君は職場で浮いていた。大学時代を過ごした姫路に自分のブルワリーをつくる。その夢の実現のため他人の目を気にしている場合ではなかったのだろう。
仕事後や休日になると、それぞれの家を行き来してビールのテイスティング会をよく開催した。僕はフリーランスライターに専念すべく早々に大山Gビールを辞めてしまったが、入山君との付き合いは続き、よく一緒にビールを飲んだ。おそらく彼とビール抜きで会ったことは一度もない。
そんな入山君も2017年の頭頃、ついに独立に向けて大山Gビールを辞めるということに。クラフトビールの本場アメリカで独立するブルワーの“Toshiさん”こと石井敏之さんを訪ねて僕と入山君は一緒にグアムに行った。入山君はその際、Toshiさんの人脈でアメリカ西海岸のブルワリーを紹介してもらい、グアム旅行後に現地で修行することもできた。5年前、全ては順風満帆に行っているように見えた。「独立が決まったら俺が一番最初に取材するから!」と口約束したのもこの頃だった。
その後、入山君との繋がりはかなり薄くなってしまった。姫路のビアパブで働いているという情報は入ってきてはいたが、独立するという話が全然入ってこなかった。結婚をし子どもが生まれたとは聞いていたので、なかなかリスクが取れなくなっているのかなと要らぬ心配をしていた。そして、4年の歳月が流れた。
昨年11月、入山君から独立に向けて動いていると連絡があった。いよいよその時がきたのか!と感慨深いものがあった。2022年3月に醸造設備を搬入し、免許の取得に動いて5月から仕込みを開始。オープンに向けて色々準備中とのこと。
先月、準備中の入山君に会いに行ってきた。彼と会うのは実に3年半振りのことだった。
名前は「イーグレブルワリー」。イーグレとは白鷺、そう姫路城の別名である「白鷺城」から取っている。場所は姫路駅から少し西に行ったところにある姫路市苫編(とまみ)というところだ。工場の中に入山君はいた。
作業中の入山君に聞いたところによると、テスト用ビールを造っているという。
「今、定番は4種を考えています。IPA、ヘイジーIPA、フルーツビール、フルーツサワーのラインナップです。タンクは500リットルで中国製。狭い中でどうスペースを有効活用するか?かなり頭を悩ませましたね。でも、ゼロから作るところが楽しかったです」
近況を語る入山君の表情は生き生きとしていた。今は工場内に自分しかいない時間も多く、改めて大山Gビールの岩田工場長の凄さがわかったという。
「任されている嬉しさはありますが、同時に不安もありますね。岩田さんの経験値の凄さを最近よく痛感しています。道具の選び方や選ぶサイズ一つとっても全部意味があったんですよね」
イーグレブルワリーは姫路市内に複数店舗のお店を展開する池内正雄さんと協力し合って設立された。姫路出身の池内さんはバーテンダー歴25年。バーを営む中で製造にも興味を持ち、なかでもビールの醸造所を立ち上げることを夢見ていた。池内さんはこう話す。
「2015年くらいからですかね、製造をしたいと考えるようになって勉強のためにブルワリーや蒸溜所を回りました。ビールが好きでブルワリーを立ち上げたいと思ったとき、酒屋さんの紹介で入山君と知り合いました。どんな人となりか知りたくて飲みも食べも連れまわしました(笑)。真面目さが伝わって来たんで任せられると思いましたね」
ベテランバーテンダーとクラフトビールのコラボ。ありそうであまりなかった業態だ。入山君もそこに可能性を感じている。
「イーグレブルワリーは、ブルワーとバーテンダーが一緒になって一つの酒を造るところに個性があると思ってます。サワービールに入れるフルーツの選択も、池内さんのバーテンダーならではの発想で助けてもらっています」
最後に池内さんと入山君それぞれに意気込みを聞いた。まずは池内さんから。
「クラフトビールの魅力や面白さを伝えたい、というのは大前提でありますが、ビール以外のお酒やペアリングの楽しさなども発信したいですね。クラフトビールを使ったカクテルも可能性があると思っています。姫路は住みやすくていい街ですが、姫路城以外の目的地がもっとあって欲しいと思うんです。ここをその一つにして、姫路をもっと盛り上げたいと思います」
入山君はこう話す。
「姫路はそこそこ大きな街なのに、僕らが初のブルワリーなんですよね。なので、姫路の皆さんにここでクラフトビールを知って欲しいです。ビギナーの方向けにクラフトビールに入りやすい感じでやっていきたいですね。ビールに目覚める。そんな場所になれたらと思ってます」
イーグレブルワリーはいよいよ7月19日にグランドオープンする。 https://www.instagram.com/egretbrewery_craftbeer/