まだミートボールはポテンシャルの高さを発揮できていない
「好きな食べ物は何ですか?」という質問は、一見アメリカのように自由に答えられる雰囲気を醸し出していながら、その実、北朝鮮のように答えの自由が厳しく制限されている。
というのは、回答として「焼肉」や「寿司」「うな重」といったちょっぴり贅沢な食べ物が期待されているのであって、「きんぴらごぼう」とか「椎茸の佃煮」「ワカメサラダ」といった華のない答えは求められていないばかりか、人格をも疑われかねない可能性を秘めているためだ。
つまり、「何でそんなのをチョイスした??」と周囲に思わせてしまう食べ物は挙げてはならないという暗黙の了解が横たわっているのである。
挽肉界で言えば、「ハンバーグ」は100点の回答だが、「そぼろ」は70点、「ミートボール」は50点くらいの回答となる。これは会話を抜き出すと納得できるようになる。
A:うーん、悩んでしまいますが、やっぱりハンバーグですね。
Q:好きな食べ物は何ですか?
A:そんなの決まってるだろ!ミートボールだよ、ミートボール!野暮なこと聞くんじゃねえよ!
誰がどう見てもハンバーグと回答した人の方が常識的に映ることがわかるだろう。
では、一体なぜ「ミートボール」は挽肉界の中で、いや、料理界全体の中でこんなに地位が低いのだろうか。何を隠そう、ミートボールをこよなく愛するミートボール支持者の僕は「イシイのおべんとクン犯人説」を提唱している。
いや、正確に言えば犯人であり、かつ大使。イシイのおべんとクンはミートボールの普及に大きく貢献した。その意味で言えば大使だ。一方で、
この画像のような「ミートボール=幼稚園児が食べるもの」という刷り込みをしてきたという側面も小さくない。これはビールにおけるピルスナーの役割に似ている。つまり、ビールという飲み物の普及には大きく貢献したものの、「ビール=苦みがあって金色で泡があるもの」という刷り込みをしてきたという二面性だ。
また、ミートボールが「肉団子」といういかにも垢抜けない別名を持っている点もブレイクを遅らせている一要因であると指摘したい。肉+団子。こんな鈍重な響きを持つ日本語が他にあるだろうか。もしピコ太郎が「肉団子太郎」という名前だったら、ジャスティン・ビーバーも世界に紹介をしなかっただろう。どんなに頑張ってNY風を装っても「あんたしょせん肉団子でしょ」とバッサリ断罪されてしまうところにミートボールの悲哀がある。
まさに今、アメリカのニューヨークではミートボール専門店が人気を博し、プチブレイクの様相を呈している。影響は極東に及び、札幌でもミートボール専門店が誕生した(その名もThe Meatball Factory)。こういった専門店の特徴は、ソースの種類が豊富なこと。イシイのおべんとクン的甘酢あんは味わいの一つでしかないのだ。
そこで僕はひらめいた。世界の多彩なビールと多彩なソースを絡めたミートボールのペアリングを楽しめたら最高なのではないか、と。例えば、ホワイトソースが絡んだミートボールとベルジャンホワイトは合うし、デミグラスソースが絡んだミートボールは濃色ビールと合う。一口サイズという大きさもつまみとして優秀だ。
基本的にアンチペアリング(つまみなしで飲みたい)派の僕だが、一般世論はそうでないことは重々承知している。そんな折、夏にNHK文化センターでペアリングの講座を受け持つことになった。ミートボール&ソースを題材にビールと合わせる方法を追求し、僕なりのミートボールメソッドを編み出して伝授する意気込みである。ミートボールのポテンシャルが世界中に認識され、ミートボールの地位が向上するという肉団、いや、大団円を迎える日もそう遠くはない。