もしかしたら僕は“ビジネスビーラー”なのかもしれない
ビール教室を開く機会が増えてきた。
「自分が講師でいいのかな?」なんて思いながら、依頼されればついついやってしまう。人見知りなくせに人前を苦にしないタイプなので、「ビールのことを延々語って、厳選した銘柄をテイスティングして、さらにお金までもらっちゃっていいのかな?まあ、いいか」と軽い気持ちで講師業にいそしんでいる。
先日も50名規模の参加者を前にビールの基礎講座を開催した。いわく、オトナのビール研修である。講義前に担当者の方と雑談をしていたら、何度もされたことのある質問を投げかけられた。
「矢野さんは、やっぱり毎日たくさんビールを飲まれるんですよね?」
これ、本当によく聞かれるのだ。「ビアライター」とか「ビアエッセイスト」とか「ビールが趣味」とか自称していると、毎日大量に飲む人だと思われるらしい。実際は週2~3日の休肝日をきちんと設けており、量も1日1本のみが基本。大量に飲むのは樽で買ってビールパーティーをするときや外で飲むときくらいで、せいぜい月に1~2回といったところだ。僕なんかよりたくさんビールを飲んでいる人は山ほどいるだろう。
Facebook、Twitter、Instagramなど多くのSNSをやっているけど、周りには「この人は筋金入りのビール好きだな…」と若干引いてしまうくらいの人も結構いる。そう、僕は筋金入りではないのだ。
まだ僕が実家にいた頃、小6か中1のときくらいのことだっただろうか。
当時、家族でよく新潟や北関東の山に行ってスキーを楽しんでいた。義理の父(母の再婚相手)が特に大好きだった。ある日、義父は「今度の週末、スキー板とウェアを買ってあげるよ」と言ってきた。僕は嬉しさよりお金がもったいないと思ったので、「いや、要らないよ」と答えた。義父は「スキーが好きならウェアとかも欲しくなるものでしょう。行こうよ」と食い下がった。それに対して僕は「もし“ウェアが欲しくなる、というのがスキー好きであることの定義”なんだったら、オレはスキーが好きではないんだと思うよ」と子どもながらにクソ生意気な言葉を返した記憶がある(よく殴られなかったな…)。
「○○○だったら、当然×××だろう」と人は考える。「ビール好きだったら、毎日ビールを飲むのだろう」とか「ジャマイカ人だったら、当然レゲエが好きだろう」とか。でも、イメージと実際に開きがあることはよくある。そんなイメージ通りにコトが運ばないのが人の世なのだ。
人の前に出るときこそ「ビアエッセイスト」とか「ビアライター」といった肩書きを冠しているし確かにビールは好きなのだけど、僕の人生はビール最優先ではない。家族や自分の健康、きちんと稼げるライター仕事の方が遥かに大事である。ビールのことは後回しにしがちだし、それでもいいと思っている。
昔、とあるお笑い芸人が“ビジネスブス”という言葉を編み出していた。それに倣うなら、僕は“ビジネスビーラー”といえるのかもしれない。仕事上、ビールのプロぶってはいるけれど、私生活では極めて穏やかなビール人だ。僕は自分なりのゆるいペースでビールを楽しんでゆくので、あまり急かさないで欲しいのである。今の自分は子育ての比重が大きい。楽しいし幸せも味わえて、素晴らしい毎日だ。
ただし、子育てがひと段落したら、僕は暴れ回ってやろうと思っている。世界中を飛び回ってビールを飲んで、街の空気を感じて、人の話を聞いて、おもいっきり文章を綴りたい。なんだか今後、そうなっていくような気がしてならない。“ビジネスビーラー”から“筋金入りビーラー”へ。ちょっとここに予告しておこうと思う。