「週末は男子がカレーを作るべし」を家訓にしたい
どんなときに飲むビールが一番美味しいか?
これはビール好きにとっては、「人間はいかに生くべきか?」と同じくらい根源的かつ哲学的な問いである。答えはたくさんあろう。シチュエーションに加えて、どのビールを飲むか?も大事になってくる。
・風呂あがりに飲む発泡酒
・草野球の練習が終わった後に飲むラガー
・仕事が終わった後に飲む冷えた生ビール
・気心知れた友人を自宅に招いたときに飲むIPA
どれも素晴らしく美味いだろう。だが、僕は
・一人キッチンでカレーを作りながら飲む新ジャンルビール
と答えたい。
僕は普段、あまり料理をしない。でも、カレーだけは大好物なので、この10年間ずっと作り続けている。できあがるまでの過程も好きだ。具材を切り、炒め、水を足したら沸騰させ、アクを取ってルーを入れ、煮込む。この不確かで混迷を極める現代社会において、具材がカレーに仕上がっていく過程だけは確かである。
料理を始めたばかりの20代半ばの頃は作るので精一杯だった。それでも何十回と繰り返していると余裕が出てくる。いつからか合間にビールを挟むようになった。答弁する政治家がコップの水を飲んで自らを落ち着かせるように。調理前にカレーの神様に乾杯、玉ねぎを切って炒めて急いで一口、肉を投入して流れるように一口、鍋に水を足して余裕の一口、アクを取りながらボケーッと一口、煮込んで味見をして一口。もはや「カレーを作る」という行為とのペアリングと言えるかもしれない。基本慌ただしいので、じっくり味わいたい銘柄よりサクッと飲める新ジャンルビールが向いていると僕は思う。「麦とホップ」なんか最高だ。
日曜だった昨日もカレーを作った。いつもは夕飯用なのだが、昨日はお昼前にキッチンに立った。そうすると、昼と夜の2食分妻を助けられるので昼からがよりいい。もちろん、ビールの味わいも飛躍的に増大する。明るいうちから飲むビールほど美味しいものはないからだ。
週末の昼間、父が台所にエプロン姿で立ってカレーを作る姿を僕は息子に見ていて欲しい。「男子厨房に入らず」なんて時代錯誤も甚だしい。バンバン入って母を助けるべきだ(自分が実家にいた頃はそんなことしていないが力強く棚に上げる)。
そして、息子が中学か高校くらいになったら、この週末恒例のカレー作りを引き継ぎたいと考えている。引退時に山口百恵がマイクをステージにそっと置いたように、キッチン用スリッパを綺麗に揃えて台所に置く(木ベらを添えて)所存だ。カレーを作る息子をカウンターに座って眺めながら、今度は軽めのエールビールを食前酒として飲みたい。息子が二十歳を超えたら乾杯もできるだろう。
夢には続きがある。この伝統を息子が家庭を築いたときにも続けて欲しいのである。息子の家に呼ばれ、息子がカレーを作る横で孫くんを抱きながら瓶ビールなんか呷る。僕は祖父として孫にこう言いたい。「お前も大きくなったら、週末にカレーを作るんだぞ」と。ああ、そうなったらいいなあ。千里の道も一歩から。今度の週末もカレーを作ろう。