会社員がウィークデーを乗り切るために


 日が沈むまで畑仕事をすることが多い義母が少し前、「夏至っていつだっけ?」と聞いてきた。新聞か何かで見ていたので、「確か3、4日前ですよ」と告げると、「やっぱりね、ちょっとだけ日が短くなった気がしたんだ」と言っていた。

 梅雨のど真ん中の6月末。夏までまだもう一息と思える時期から、もう日は短くなり始めている。夏が異常なまでに好きな僕は、その事実に哀しくなる。日の入り時刻がどんどん早くなるこの時期を「夏」と呼んでいいものか?とすら思ってしまう。

 が、冷静になると、7月の梅雨明けから9月の中旬くらい迄は通常「夏」と呼ぶことができ、夏のピークは8月と言うことができる。夏好きの僕が一年で最も好きな時期は7月の梅雨明け前、つまり今である。これは日曜が好きな会社員が日曜より土曜、土曜が好きな人が金曜の夜を愛することと似ている。これはちょっとした矛盾である。夏が好きな人も日曜を愛する人も、その直の時間ではなく少し前の時間を好む。

 奈良の五重の塔を指してだったか、「まだそれを見たことがない人は幸せである、なぜなら初めて見るときの感動がこれから味わえるから」といった表現があったが、それも矛盾に満ちた言葉だが意味はよくわかる。つまり人は、極上の時間が後ろに控えているとき、一番幸せを感じる生き物なのだ。

 逆に言うと、しんどいなと思う時間が後ろにあるとき、本当のしんどさを感じる。それが、日曜夕方のサザエさんが嫌がられる理由なのだろう。でも、日曜日になると僕はこう考えた。本来は日曜が好きなのだ。そのあまり、前へ前へ好きな時間がスライドしているけれど、好きな時間の中に今いるではないか、と。そう理屈で考え、サザエさんシンドロームになることはなかった。

 実は本当にきついのは月曜の夜。そこさえクリアすれば、一週間は乗り越えられる。僕が取った行動は、月曜の夜にビールを飲むことだった。行きつけのバーで。その習慣はおよそ5年間続いた。毎週、月曜日にバーへ行き、ビールを飲み続けた。少なくても3杯、平均5杯。10杯以上飲んだこともあった。

 次に僕が目を付けたのが、木曜の夜だった。火曜の夜は前日のビールの余韻で乗り越えられる。水曜の夜は「よし、折り返しだ」と思い乗り越えられる。金曜の夜は当然、「週末だ!」で乗り越えられる。木曜の夜だけが若干希望に乏しい。だから、僕が月曜の次にビールを飲んだのが木曜だった。
 
 月と木という要所に、自らの身にビールと言う名のセーフティブランケットをかけてあげる。それで、僕はメリハリのある会社員生活が送れた。ブランケットが厚過ぎて翌日ふらふらになったこともちょこちょこあったことは、この際黙っておくとしよう。そして、言うほど仕事が嫌いではなくむしろ割と仕事が好きだった事実も、文章全体の説得力をなくすから言わないでおこうと思う。

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