口説くときのお酒にビールがふさわしいと思う理由
異性を口説くときに一番ぴったりな酒はビールだ、と思うのである。
多くの人は「気になる異性にアプローチするときに飲むお酒は？」といった質問を受けたら、「カクテル」と答えると思う。これはもう「バレンタインと言ったらチョコレート」「ニューヨークと言ったら自由の女神」「番組はまだまだ続きますと言ったら実質番組終了」といった刷り込みでしかない。
実際、自分が女だったとして、「なんかこの人、私に告白してきそうだな」という雰囲気をまとった男性が食事後、「カクテルが美味しいバーに行かない？」と言ってきたら、身構えてしまうだろう。だが、「ビアバーに行かない？」と言ってきたら「ビアバ…」の時点で食い気味に「はい、喜んで！」と付いて行く自信がある。それは自分がビール好きだからかもしれない。だが、カクテルよりあざとさが少ないのは確かだろう。
ワインはなんだか高尚な感じがするし、日本酒やウイスキーはアルコール度数が高い上に好みもある、焼酎や泡盛ではどうも雰囲気が出づらい。サワーは大学生にしか許されない気がするし、養命酒だと恋愛話より健康トークがしたくなる。そこで、ビールなのだ。
ビールには他の酒をカバーする多彩なスタイルがある。レッドビールは赤ワインのようだし、バーレーワインはバーボン、クリークやフルーツビールはカクテルのようだ。アルコール度数も3％程度から15％以上のものも珍しくない。味わいも色合いも、アルコール度数も炭酸の強弱も全てに幅がある。武田信玄が現代に生きていたら、間違いなく「幅の広きこと麦酒の如く」と呟いていただろう。
そして、一つ決定的かつ男女間においては重要な要素がある。
それは、ビールには回し飲みを許すどころか推奨するフランクな文化があること。カクテルは互いのグラスを交換して飲むには量が少ない。ワインなど他の酒はよほどの通同士である以外、交換して飲んでも差異は小さい。それがビールだと、
「これ、バナナみたいな香りがするよ」
「この赤いビール、かなり酸っぱい！」
「スモーキーな香りがしてベーコンと合いそう」
「IPAだけあって、これでもかってくらいホップを感じる」
こう人に言われたら、「どれどれ」とつい自分のグラスを渡し、相手のグラスを取って飲んでみたくなるのではないか。すると、ごく自然に間接キスをすることになり、二人の距離はぐっと縮まるに違いない。それこそが、ビールマジックなのである。
ここ数年、婚活イベントが全国各地で行われている。最近、ようやくクラフトビールを飲みながらの婚活イベントが行われるようになってきたように思う。当然、カップル誕生率は高いはず。そんな二人は周囲から「ラオホ婚」とか「IPA婚」と呼ばれるかもしれない。瓶内発酵した一本を開栓したときのように元気な赤ちゃんも生まれる。「美味しくないビールは世の中の敵です」という言葉があるけれど、「美味しいビールは日本の味方です」と言える状況がすぐそこまで来ていると僕は思う。
