仕掛け人は異色のキャリア!IZUMO BREWING CO.設立の背景に迫る


『山陰クラフトビール』出版後、
水郷祭に合わせてクラフトビアフェス松江が開かれた。
ビールを飲んでいると、とある人と名刺交換することに。
「今度、出雲にブルワリーを作るんです!」
えっ!?全くのノーマーク!というわけで、
一体どんな人がどんな思いで設立するのか、
出雲まで足を運んで準備中の仕掛人に色々聞いてみた。

石見式を知り尽くす業者が急ピッチで施工中。

出雲市駅を出て駅前を貫くくにびき中央通りを歩くこと約5分、右手に工事中の物件が目に入る。

こちらが10月上旬のオープンを目指しているIZUMO BREWING CO.の工場併設のビアバー、いわゆるブルーパブ。お話を伺ったのが株式会社さざれ石 専務取締役の丸尾聖治さん(32歳)。やり手の雰囲気が漂う好青年という印象だ。

「お店は10月7日にオープン予定です。免許が下りて醸造を開始するのは早くて来年3月からなので、最初はお世話になっている石見麦酒さんによるOEM商品のケグを繋ぎます。12タップのうちBrutIPAとレッドIPAはオリジナルで、あとのタップはまずは山陰近隣のビールを置かせてもらいます。2タップは窒素を繋ぐナイトロも用意します。クラフトビールに親しんでもらえるお店にしたいです」

そう、こちらのブルワリーも江津市に拠点を置き、今や全国に広がる石見麦酒の方式を採用している。工事を担当している業者の方々も石見麦酒の現場をよく知っており、スムーズに施工が進んでいるようだった。このブルーパブ、一体どんな特徴があるのかを丸尾さんに聞いてみると、

「席数はタップ前のカウンターと窓際に置くスツールのみで、15人も入ったらいっぱいになります。大家さんとの約束もあり、21時には店を閉めることになっていますので、仕事帰りの方などが1、2杯サクッと飲むような場所になるかと思います。造り手は僕と出雲出身で元陸上自衛隊の男性スタッフの2人で行う予定ですね」

なんと専務取締役自ら醸造に積極的に関わるのだという。この丸尾さん、話を聞いてみるとかなり異色の経歴の持ち主だということがわかった。

工場予定スペース。石見麦酒より少し大きいくらいの広さだそう。

商社勤務から旅館経営に転身。帰京後に再び出雲へ。

丸尾さんの出身は千葉県。一体なぜ遠く離れた出雲にやって来たのだろうか。

「妻の祖父母が出雲出身で老舗の旅館を営んでいました。元々は3年半前、そこのお手伝いをするためにこちらにやって来たのが始まりです。東京では商社で鉄鋼の輸出の仕事をしており、アメリカや西アフリカ担当でした。仕事は楽しくてやりがいもありましたが、色々思うところもありまして、出雲の話を聞いてこれは関わりたい!と思って来てしまいました(笑)」

安定した総合商社の仕事を辞めて飛び込んだ出雲。不慣れな地で老舗旅館の再建を任されながら様々な人との出会いやその助けもあり、1年半ほどで立て直しに成功、後任に経営を譲って退任することに。時は2017年10月。なお、株式会社さざれ石の設立は2018年5月とのこと。この空白の半年間に一人の男性が頻繁に登場し、人生がまた転回した。

「旅館の再建後、浅草に戻ったんです。僕の中では出雲で本当に色々な方に支えていただいて、同時に強烈な挫折感もあって…。また東京でやっていこうと思っていました。でも、出雲で知り合った方達が出張などで東京に来るたびに声をかけてくれるんです。“何やってるの?帰って来いよ!”って。その一人が三木でした」

三木さんこそが株式会社さざれ石の代表取締役の三木康夫さん(36歳)。生まれも育ちも生粋の出雲人で、大社正門前ご縁横丁を取り仕切る若手の有望株だ。「2人で会社やろうよ!」という三木さんの言葉で、丸尾さんは再び出雲に帰ってきた。

真剣な表情で業者の方と打ち合わせをする丸尾さん。



つまずきの先に見つけたクラフトビール事業。

「やはり三木という男が魅力に満ちているので、彼とだったら面白いことができそうだと思えたのがこちらに帰ってきた一番の理由です」

ところが、気の合う仲間との会社経営は波乱の連続だった。

「松江の伊勢宮にビルを買ってテナント運営をする話から始まったのですが、最終的にオーナーさんとは話がまとまらず…。今度は境港に物件を見つけてゲストハウスと飲食店を運営する話が持ち上がりました。これは物件購入に至りました。僕の尊敬する出雲の建築士と組んで今度はうまくことが運ぶと思いきや、島根と鳥取で細かい条例が違ったりという落とし穴があって、自分達のイメージ通りの運営ができないことが発覚。結局、そこもオープンしませんでした。焦りは募りましたね」

やはり原点に帰って出雲で。その思いから今年の春、さざれ石はご縁横丁で富くじ(宝くじ)の販売を始める。だが、中核のビジネスにするには厳しい。そんな折、意外なところからクラフトビール製造の話が持ち上がった。

ビール好きが高じて勢いでブルワリー設立を決断。

「江津市に有福温泉という温泉街があり、その老舗旅館が競売にかけられたことがありました。その社長が知り合いだったこともあり、三木と2人で現地視察に行きました。江津市役所の地域振興室の方ともお会いし、地域ビジネスの話で石見麦酒が出てきました。その場でその方が石見麦酒の山口工場長に電話をしたら、なかなか捕まらない彼がたまたま今ブルワリーにいて時間がある、と。じゃあ今行きます!とすぐに石見麦酒に向かいました」

島根県には現在、松江と江津と浜田の3つの醸造所がある。ところが、出雲周辺には皆無。空白地帯だった。石見麦酒の山口さんとの会話も盛り上がり、その場で「やります!」と立候補。実は社長の三木さんは下戸だが、丸尾さんは大のビール好きだったのだ。

「7年程前、英語以外にしっかりもう1言語習得したいと1年間フランスのリヨン大学に留学をしていました。その際、お隣のベルギーでBrewDogの直営店に入って“うまっ!!”とホップの香りと味わいに衝撃を受けたんですよね。以来、IPAなどホップガンガン系のビールが好きになりました」

IZUMO BREWING CO.のビールはホップ系のラインナップが充実しそうだ。最後に、丸尾さんにビール観と将来の目標を聞いた。

ロゴのOHはエタノールの化学式と驚き(oh!)を意味している。

科学的視点で美味しいビールを出雲に、そして世界に。

「石見麦酒の山口さんとの会話の中で出てきた“ビールは科学”という言葉が印象に残っています。僕自身、数学大好きで微生物を学んだこともあるくらいバリバリの理系。ビールを造るときは感覚任せにするのではなく、科学と捉えて分析し、実験して改善を繰り返します。独自の出雲産酵母も必ず使いたいですね」

まずは地に足をつけて出雲の人達に「美味しい!」と言われたい。そして、その先には世界を見据える。

「“出雲”という地名を冠するわけですから、地元にも世界にも恥じないビールを造りたいです。“IZUMO”を発信することで日本文化に興味を持ってもらって、実際に海外の人達に出雲へ来て欲しい。山陰にはコミュニケーター(※国際間での意思疎通を図る人)がいないと僕は感じています。商社時代の同期は100人いて、彼らも次々に独立して国際舞台で活躍しています。そういった人脈を活かしながら、ビールを通して山陰と世界を繋ぐことができたらとも考えています。まずは全力で美味しいビールを造ります!」