リアルに「人生の半分損してる!」と言われるのを覚悟でカミングアウト


 いつかノンフィクションの本が書けたらいいな、と思っていた。こんなに早く機会が訪れるとは思わなかった。

 私事で恐縮なのだけれど(このサイトで書いていること全て私事なのだけれど)、ノンフィクションの本を出版した。タイトルは『「結ぶ」と「築く」〜鳥取・大山町の移住者たちが挑んだ婚活事業〜』。僕が住む鳥取県大山町に拠点があり、移住者を中心に結成されているグループ「築き会」は、活動の一環として婚活事業を行っていた。町から正式に依頼されて。その取り組みを辿りつつ、築き会という組織がどう生まれたのかについても詳述した。

 全国各地で今、多種多彩な婚活イベントが開催されている。結果が出ずに悩んでいる人たちも多いことだろう。もしかしたらこの本にヒントが詰まっているかもしれない。また、「移住」という側面で見ても、移住者たちがどう町に根をおろし、充実した田舎暮らしを送るようになったか?一つの成功例が描かれていると思う。

 今回、ライターとして貴重な経験を積むことができた。これまで僕が書いてきた広告の文章は、料理で例えると単品料理を作る感じだった。牛丼やオムライスのような。一方、幾人もの人にインタビューをしてそれを一つの作品にまとめるというのは、まさにコース料理を手掛けるイメージ。全取材を終えると、野菜から肉、果物まで豊富な食材が手元にある。質がいいのも悪いのも混在している。とあるパイナップルを手に取っては「半分は酢豚に入れて、もう半分はデザートに使ってみようか」といった具合に全体の構成を考えるのが難しく、同時に楽しかった(パイナップル入りの酢豚は好きでも嫌いでもない穏健派)。




 これまでノンフィクションの本はそれなりに読んだ方だと思う。むしろ、人より多く読んできた。なぜか?単純に空想の世界や非現実的な話より、現実世界の話の方に惹かれるから。全く同じ理由で僕はほとんど映画を見ない。ドキュメンタリーしか興味がないのである。普通に映画を見る人は意識していないと思うけど映画の99%はフィクションであり、ただそれだけでファンタジー不感症というサイレントマイノリティーたちは映画を忌避している。正直に言うと、アニメのほとんどは何が面白いのかさっぱりわからない。

 でも、そもそも僕は思うのである。

 現実という豊穣な大地があり、その恵みをまだ十分にいただけていないのになぜ、人はこぞって現実から離れた畑でばかり収穫しようとするのだろう。映画、漫画、アニメ、小説…全部そうだ。

 もし日本人の99%が外国に引っ越してしまい、あなたが日本に残された1%だったら、「おーい、みんなー、日本だっていいところだよ!なんでみんな外に出ちゃうの?」と戸惑うに違いない。それに近い気持ちをファンタジー不感症というサイレントマイノリティーたちは感じ続けているのだ(そこは敏感に)。

 ハリーポッターもスパイダーマンもセサミストリートも、僕の心を一切打たない。ハリーポッターの活躍を見るくらいなら大山町の小学校に通う男子の胸の内に迫りたい、スパイダーマンで興奮するくらいなら蜘蛛の巣と格闘する掃除婦に掃除のコツを教えてもらいたい、セサミストリートに登場するキャラよりも国道9号線沿いに生きる人たちに興味がある。そう、あのUSJ的世界観が大嫌いなのだ(子どもがリクエストしたら家族で行くのでUSJの皆さん、出禁にしないでください)。

 ノンフィクションとビールをこよなく愛する人間である。将来的にはビールに関するノンフィクションを執筆したい。ホップ争奪戦の最前線、なぜサンディエゴはアメリカのクラフトビールの中心になったのか、地ビールからクラフトビールに呼称が変わった経緯、道半ばで早世した醸造家が描いた未来…きっと探せば色々テーマが出てくる。事実を求めて国内外を巡り、重層的な現実を一枚一枚めくるように解き明かし、読んで面白いノンフィクションを執筆する。子育て後はそんなことをやりたい(ただビールを現地で飲みたいだけかもしれない)。