飲むと眠くなる地味なメリット


 

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 大学生の頃や20代の初めの頃、飲みの席で横になって眠りだす友人がいると、「あーあ、○○が寝ちゃった!」と僕は率先して彼、又は彼女をディスっていた。いつも最後まで起きていたから、サシ飲みしているのに相手に眠られたことも何度かある。あの時間は苦痛だ。テーブルに突っ伏してこんこんと眠る友人を尻目に、一人で飲み続けてもしょうがないのでガラケーを手にメールを意味もなく見返したり、読書に勤しむ。経験上、一度眠ってしまった人を無理に起こしても効果がない。半目で「起きてる起きてる…」と言われた5秒後にまた眠られる。嵐、と言うより凪が過ぎ去るのを待つほかない。飲んで寝てしまうなんてしょうがない奴だな…と心底思っていた。

 それがいつからだろう、自分が率先して眠るようになってしまった。最初は日本酒やウイスキーなどの度数の高いお酒を飲んだとき、うつらうつらすることが増えたなと思っていた。ところが、ビールしか飲んでいないのに落ちてしまうことが増え、いよいよ“あちら側”の世界に入り込んだことを自覚した。「起きてる起きてる…」という5秒後に嘘に変わる言説がまかり通る世界だ。

 カウンターのスツールで眠り、テーブル席では考えるふりをして腕を組んで眠り、座敷席ではヘッドスライディング状態で眠った。カラオケでは使われていないソファーが僕のヘッドスライディングの特等席だった。むしろ、2次会でカラオケに行って部屋の扉を開けた瞬間、「今○人だから、この場所が占められるものの、あそこのスペースは確実に空くな…」と政府要人のSP並の空間認識能力すら身に着いてしまった。

 自宅で家飲みをすると、さらにたちが悪くなる。もう何年も前から「フェードアウト癖」を厳しく追及されている。楽しく飲んでいたのに、ふと気が付くと僕はいなくなっているという。誰にも何も告げず、自分だけ布団に潜り込んでしまうようだ。本人に自覚はない。「困るからやめて欲しい」と妻に言われているが、何度も繰り返してしまう。このように身近な人にもお客さんにも迷惑をかけるし、自分自身楽しい時間から脱落するわけだからデメリットは大きい。が、一方で最近、結構メリットもあるなとも思い始めている。

 まずは酒量が無駄に増えない。これはきっと肝臓にとっては悪くないことだろう。次に睡眠時間が取れるので、翌日比較的ラクなのもメリットだ。二日酔いにもなりにくい。そして、これは指摘しておきたいのだけど、ロマンスと無縁というのも妻帯者にはメリットなのではないかと思うのである。

 20代は酒量と“りっしんべんに生きる欲”が、性、間違えた、正比例していた。飲めば飲むほどギラついた。ハンターの目になった。ところが、いつからか酒量とりっしんべんが反比例するようになった。飲めば飲むほどスヤついた。スリーパーの目になった。本当になんでなのだろうか、グラスを重ねるごとにあらゆる意味でHPが下がってゆくようになったのだ。20代でこれだったら、僕は人生の半分を損していたに違いない。逆じゃなくてよかったな…今はそう考えている。

 飲んで眠ってしまうなんて、確かにしょうがない奴だ。でも、ずっと起きて飲み続けられる人よりトータルで飲酒生命が長く、家族も安泰で幸せなのではないか。と負け惜しみ全開で豪語しておきたい。