覆面パトカーを猛スピードで追い越した結果


 車窓を眺めながら飲むビールは、例えようもなく美味しい。新幹線や特急の方が落ち着いて飲めるから理想的だけど、鈍行でももちろんいい。ただ、周囲が飲みモードになっていないので若干周りの目が気になるのだけど…。

 先日、青春18きっぷが久しぶりに値上げするというニュースを見た。調べてみると、今日7月1日から発売のようである。値段は11850円。僕が利用していた頃は、11500円だった。青春18きっぷは5枚で一セットなので、2300円で自由にどこへでも行ける魔法の切符だった。

 よく利用したのは、時間だけはやたらとあった大学生の頃。一度、先輩後輩合わせて4人で東京から東北を目指したことがあった。今だったらスマホでパパッと乗り継ぎを確認するのだろうけど、当時は時刻表とにらめっこして乗る電車を決めた。基本的に鈍行しか乗る権利がないので、乗り継ぎ時の30分待ちはザラ。2時間以上待つこともあった。待ち時間があったらあったで食事をとればいいし、時間が余ったら駅周辺を適当に観光すればいい。暢気なものだった。

 そのときは確か岩手の北上あたりでストップすることに。夜は、ドライブを楽しめるし車中泊もできて一石二鳥だと車を借りた。免許証を持っている者で交代しながら運転していたのだけど、自分の番のときに予期せぬことが起こった。

 前を走っている車があまりにも遅かった。交通量はないのに異常なまでにノロノロ走っている。「追い抜いちゃえば」という同乗者たちの声を聞くまでもなく、僕はその車を追い抜いた。それから、しばらくすると何やら外からワオンワオンと声が聞こえてくる。拡声器の声のようだった。なんだかやかましいなと思いつつ、ふとバックミラーを見遣ると赤い回転灯。声の主は後ろの車だった。最悪なことに、僕が追い抜いた車は覆面パトカーだったのだ。

 「前の車、道路脇に寄せて停車しなさい」という声に従って止まり、つかつかとやって来た二人組の警察官は「今のはスピード違反だ。免許証を見せなさい」と言ってきた。もちろん飲酒運転ではなかったけど速度違反は仕方ない…と覚悟しながら免許証を見せた途端、こちらが地元民ではないことに気付き、優しくなった。「せっかく東京から来てくれたから大目に見よう。この先、峠があって走り屋がたくさんいるから、今みたいな運転は止めような。じゃ、気を付けて」と。なんと違反をなかったことにしてくれた。

 その夜、走り屋たちが集う峠を越えて(暴走族との区別が付かず、相当スリリングだった)、釜石に到着。港に停車して、車の中で眠った。男4人の車中泊はなかなか厳しいものがあったけど、なんとか朝を迎えた(それから10年程後、僕らが眠っていた場所が津波で沈むなんて思いもよらなかったが)。翌日は浅虫温泉で野宿、青森を満喫した。
 
 
 
 そんな電車旅のことを思い出していると、各駅停車に乗って遠くへ行きたくなってくる。みどりの窓口で青春18きっぷを買って、駅前の本屋で旅のお供の時刻表を手に入れて、キヨスクで買った缶ビールを持って。でも、これといった目的地は持たず。

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