衝撃のゴキブリエピソード4選


 春から初夏に季節が移り変わった。奴の季節がじわじわ近付いている。

 先日、インターネットでニュースをチェックしていたら、驚くべき記事を見つけてしまった。夏になると颯爽と現れる、俊足で黒がとてもよく似合い、イニシャル的にはGで始まる例の奴(以下、俊足)の好物がなんとビールなのだという。僕は全てのビアラバーを「心の友よ~」と歓迎したいと思っているけれど、こと俊足に限っては門前払いしたい。俊足が現れただけで、「ドラえも~ん」と助けを呼びたくなってしまう。

 だが、やはり同じビアラバーだけあって気が合うのだろうか。僕は俊足と濃密な日々を過ごしてきた。

 まず最初に思い出すのは、小6くらいの頃に友達とどこかの公園へ遊びに行ったときのことだ。売店で買ったフライドポテトをみんなで仲良く分けて食べていたら、誰かが「おい、なんか髪の毛入ってるぞ」と言った。するとそれを聞いた友達が中を覗き込み、「おー!なんかいる!」と言って、箱の中身をテーブルの上にぜんぶ撒き散らした。そこでポテトにまみれて揚げられていたのが、俊足だった。

 それから時が経ち、僕が俊足とともに日々を過ごした中で印象深いのは、大学時代のバイト先だ。とある喫茶店だったのだが、一時期俊足が大量発生した。茶色くて大きさ的には小ぶりの俊足だった。カップを取り出そうと頭上の戸棚を開けた瞬間、頭に俊足が落下してきたこともあれば、俊足入りのコーヒーを気付かずにお客様に出してしまったことも2度あった(ごめんなさい)。閉店後の最後の仕事に、殺“俊足”剤をまく仕事も追加されたくらいだった。

 一時期はキッチンの至るところに俊足がいて、ちょっと垂らしてしまった牛乳を吸い始める、がめつい俊足もいれば、なぜかアツアツの電子レンジの中ではしゃぐリアクション芸人のような俊足もいた。さらになぜか、氷の中に閉じ込められたマンモスのような俊足がいたこともたびたびあった。究極だったのは、パスタを茹でる鍋の中で俊足が出産していたときだ。親俊足といくつもの赤ちゃん俊足が同時にプカプカ浮かぶ姿は、気持ち悪いという表現を超越して、むしろ神々しいくらいだった。

 大学を卒業し、一人暮らしを始めてからも俊足との付き合いは続いた。いや、より濃密になったとも言える。

 ある朝、自宅の最寄り駅のホームで靴の中に妙な違和感を覚えたので靴を少し脱いでチラっと見てみると、俊足がつぶれていた。心の中で「!!!!!!」という結論に至ったが、「いや、今のは葉っぱだよ、葉っぱ」と自己暗示をかけて、会社近くのコンビニまで俊足が引き起こしているであろう違和感を耐えた。迷わず靴下を買って、即座に店の外で履き替えた。その瞬間に垣間見えたのは、間違いなく俊足だった。自信が確信に変わり、その日の夜ほど豆腐を食べるのが困難な夜はなかった。

 さらにこんな記憶が蘇る。ある夏の夜、僕は部屋で眠っていた。意識と無意識のちょうど境界くらいの時間の中で、僕は“ジジッ”という蝉の鳴き声のようなものを耳にした。そして何気なくおしりに手を当てると何かに触れた気がした。そこから急激に意識がはっきりしてきた。不思議なことに真っ暗な部屋の中で、僕は自分の身に起きたことをすべてわかってしまった。「そうではありませんように…」と一縷の望みを懸けて部屋の電気をつけると、淡い期待を打ち砕くかのように、明かりの下には僕の寝返りによって完全に圧死させられ羽がズレた俊足がいた。そのとき、僕の頭には“翼の折れたエンジェル”という言葉以外が浮かばなかった。
 
 
 
 正直、もう俊足とは縁を切りたいと思っている。こんなくされ縁は僕の人生に不要だ。だが、これからも僕の目の前に現れてしまうかもしれない。そのときは、「まあ、同じビアラバーではないか…」と自分を無理やり納得させようと思う。

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